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母子手帳(3)

「障がい児と母子手帳」

久留米大学文学部教授
宮原信孝

ベトナムの子どもたちを支援する会事務局長の板東あけみさんが、ベンチェ省の役人に母子手帳の利用を勧めたのは、乳幼児や妊産婦の死亡率の低下を願ってだけのことではありませんでした。同会が障がい児教育施設への支援を行っているうちに、同省では障がいを持って生れる子どもの数が多いことに気づき、よく調べると妊産婦の栄養不足が原因だということが分かったからでした。

私にはベトナムと言うと社会主義の国で一見都会的なイメージがありました。しかし、実際には古くからのアジアの農村社会が基本の国なのです。特にベンチェ省のようなメコンデルタのど真ん中の地域では、農村社会の習慣や風習が残っていたようです。嫁は最も働かなくてはならず、食事を取るのも家族の中で最後という風だったようです。これが80年代の食糧難の時代の妊産婦に大きな影響を与えていたのです。

母子手帳は、家族の中で妊産婦を大事にするという新たな生活スタイルを生み出しました。妊産婦が母子手帳を夫とともに、或いは家族みんなで読んで大事に子どもを生み、育てていくというスタイルです。

板東さんは、2002年から始まった復興支援のためにアフガニスタンにやってきました。同国は、1996年の統計では出産10万件で1700人の妊産婦が死亡し、某NGOの調査では5歳未満の乳幼児は1000人中257人が死亡するという国でした。母子手帳の出番だという風に思われる状況です。

しかし、同国における板東さんの仕事は障がい児教育でした。板東さんは障がい児を持つ家族を一軒一軒訪ねて歩きました。分かったことは、同国には障がい児が生れる条件がそろいすぎている、ということでした。障がい児アリー君のお母さんは、10回出産しました。アリー君を除く9人は、死産であったり、乳幼児で亡くなったりしました。良く聞くとこれら子どもたちも障がいをもっていたようです。原因は栄養不足に加え、出産についての知識不足、産婆が極端に少ないこと、何世代にもわたる従兄妹婚の風習などもあります。

母子手帳を使って妊産婦の栄養状況を良くする前にこの社会状況を改善せねばなりません。だが、容易いことではありません。まず障がい児を社会に認知させることだと板東さんは考え、教育大臣、高等教育大臣、殉教者・障がい者大臣を呼んで障がい児教育セミナーを行いました。家の中に隠れていた障がい児を学校に行かせ誰もが教育を受ける権利があることを周知させようとしたのです。アフガニスタンにおける母子手帳の利用はこの後に始まるのでした。

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